家訓二ストの超訳『論語とソロバン』
「和風マネジメント」
急ぎの仕事は、忙しい人に頼め
格言
元サッカー日本代表の中田英寿さんは、どういう選手をめざすのか?との問いに、「パスを回したくなるプレイヤー」との返答をされています。パスがあつまる選手は信頼が厚い証拠であり、見せ場もそれだけ増えます
これはビジネスにも当てはまる真理で、「急ぎの仕事は忙しい人に頼め」とのことわざには、妙に納得させられてしまいます。
岡田斗志夫氏と内田樹氏の「評価と贈与の経済学」という本のなかの対話にて、お金を回していくってことはどういうことか、と言うことで以下のように述べていました。
「あっちからパスが来たら、次の人にパスする、そうするとまた次のパスが来る。そういうふうに流れているんですよ。パス出さないで持っていると、次のパスが来ない。来たらすぐにワンタッチでパスを出すようなプレイヤーのところに選択的にパスが集まる。そういうものなんですよ。」
ビジネスにおいても。情報を、パっと回してあげることが大事で、情報をストックさせているだけでなくしっかりフローさせるってことがとても重要です。
もったいぶって足元に留めておいても得点は入らない。なるべく早く、なるべく必要なひとにパっと届けてあげなければならない。すると、あの人にパスをするとボールがよく通るってことで、そういうところには自然によくパスが集まってきます。
ビジネスの世界でも、お金や情報をため込む会社は案外利益を出していないケースが見受けられます。お金も情報は回してこそ意味がある。たとえば、取引を通じて、儲けさせてくれる会社には自然と、次の儲け話も舞い込みます。逆に絞るだけ搾り取る会社とは、付き合いはするけど、美味しい話は持っていきなくないっというのも人情なのではないでしょうか?
自分が幸せになりたいなら、人を幸せにしろ
前述の「パス理論」では、お金と情報を回してくれる先に儲け話がやってくることを紹介させていただきました。そして、この理論の根本には、「信用」という一番大事なファクターがあります。ビジネスの世界で成功を収めたいなら、自社の繁栄だけでなく、お取引先さま、お客様、消費者っと、とりまく全ての人をハッピーにする必要があります。だましだまされるのがビジネスの世界。そんな世知辛い商いの世界で、日本では高いモラルを持つ商人たちが活躍してきた歴史があります。
ジャパン・スタンダード
正直や信用をベースとした日本企業の商習慣をジャパン・スタンダードと呼びます。ひと頃はジャパン・スタンダードを「系列」や「談合」というマイナスのイメージで捉え、それに対置して「市場原理と公正な競争」からなる「グローバル・スタンダード」を説く専門家がいました。
しかし、グローバル・スタンダードといっても、5年10年で生まれた新しい概念にすぎず、200年、300年もの商人の原理のなかで磨かれてきたジャパン・スタンダードと比べるとボロが目立つようになりました。金が金を生み、猛烈な格差を生むグローバル・スタンダード。貧困撲滅に取り組む国際NGO「オックスファム」は、世界人口の最富裕層の「1%」が、 世界にある資産の48%を握っているという新たな報告書を発表しています。
反対に、日本のように長く安定的な共同体が続くなかで培ったジャパン・スタンダードでは、「正直 信頼、助け合い」の商売の方が繁盛するので、売り手も買い手も、適正な利潤のなかで商いを続けます。どちらが社会にとって、幸せをもたらすかは言うまでもありません。グローバル・スタンダードのルールは、金持ちが絶対に負けない八百長ゲームなのではないでしょうか?
世界が注目する和風マネジメント
1%の富裕層が富の独占をする社会に、正義はありません。反対に人間に幸福をもたらす、ジャパン・スタンダードが地球全体の新しいグローバル・スタンダードになっていくと予言します。家訓二ストはこれを「和風マネジメント」と名付けました。
和風マネジメントの良さをグルーバルスタンダードと比較すると、相手に裏切られるかもしれない市場原理では、だましだまされ、裁判や契約に、膨大なコストと時間が失われていくことになります。消費者をそっちのけで、机の上でにらみあっても誰も幸せになれません。しかし和風マネジメントなら、なにか問題があったら、取引先と一緒に知恵を出し合って解決する。お互いを信頼するからこそ成立する温かい経済活動は、契約や裁判にムダな時間を使うより、はるかに効率的でありまた創造的です。
そんな和風マネジメントを大成した人物が日本にはいます。明治期に活躍した実業家・渋沢栄一です。
ドラッカーも絶賛した、その功績と、著作である『論語と算盤』を紹介していきます
ドラッカーも絶賛した経営の神様
率直にいって私は、経営の「社会的責任」について論じた歴史人物の中で、かの偉大な明治を築いた偉大な人物の一人である渋沢栄一の右に出るものを知らない。彼は世界の誰よりも早く、経営の本質は「責任」にほかならないということを見抜いていたのである
ピーター・ドラッカー
『マネジメント』の著者であるドラッカー博士は渋沢栄一を絶賛していました。日本の資本主義の父と言われる渋沢栄一の考えは、栄一がまいた資本主義の種をもとに、世界有数の経済大国となった今、大輪の花をさかせています。
江戸時代の商人のポテンシャルは、世界でも秀でたものでした。さらに、江戸から明治という激変する社会情勢の中で、渋沢という巨人が現れ、日本の近代化だけでなく、世界のマーケットをけん引する会社群を創造したのです。商いとは、所詮金儲け。しかしその金儲けの中に、「論語」をベースにした道徳観の必要性を説いたのが、渋沢の特徴です。この考えを端的にあらわしたキーワードが、「論語とソロバン」となります
栄一は晩年、こんな趣旨のことを言っています。
「私が財閥をつくろうと思い、実際につくっていたら、三井や三菱よりは大きな財閥になっただろう。大金持ちにもなれたはずだ。しかし、私は自分が大金持ちになるより、自分以外にも大勢の金持ちをつくりたかったのだ。」と。
現在、世界ではグローバル化が進み、1%の富裕層が、世界の半分の富を独占するデタラメな「経済」がまかり通っています。一方、渋沢の目指していた社会は、一部の金持ちが富を独占することなく、多くの金持ちを作りたいという社会です。実際、栄一は、娘や息子たちに会社を継がせませんでした。そして栄一の活躍した時代から約100年。日本は、世界に類のない格差のない豊かな国を実現しています。
渋沢栄一とは?
「私が財閥をつくろうと思い、実際につくっていたら、三井や三菱よりは大きな財閥になっただろう。大金持ちにもなれたはずだ。しかし、私は自分が大金持ちになるより、自分以外にも大勢の金持ちをつくりたかったのだ。」
渋沢栄一 名言より
渋沢栄一(しぶさわ えいいち) 1840年―1931年
幕末から大正初期に活躍した日本の武士(幕臣)、官僚、実業家。 『論語と算盤』を著し、「道徳経済合一説」という理念を打ち出した。各種産業の育成と多くの近代企業の確立に努め、数多くの企業の設立・経営に関わり、日本資本主義の父といわれる。
第一国立銀行ほか、東京ガス、東京海上火災保険、王子製紙(現王子製紙・日本製紙)、キリンビール、など、多種多様の企業の設立に関わり、その数は500以上といわれている。また多くの起業に関わりながらも一族を経営に関わらせなかったことでも有名
論語と算盤(そろばん)
「富をなす根源は何かと言えば、仁義道徳。正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することができぬ。」
渋沢栄一著『論語と算盤』より
渋沢は、大正5年(1916年)には『論語と算盤』を著しています。その本のなかで、道徳と離れた欺瞞、不道徳、権謀術数的な商才は、真の商才ではないと断言されています。
『論語と算盤』は”論語つまり倫理、フィロソフィ、経営理念”と、”算盤つまり利益、戦略の実践による利益の追求”を両立させて経済を発展させるという考え方です。渋沢は幼少期に学んだ『論語』を拠り所に倫理と利益の両立を掲げ、経済を発展させ、利益を独占するのではなく、国全体を豊かにする為に、富は全体で共有するものとして社会に還元すべき、という理念ある戦略の実践を説きました。いわゆる「道徳経済合一説」という理念です。
”富をなす根源は何かと言えば、仁義道徳。正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することができぬ。”
そして、道徳と離れた欺瞞、不道徳、権謀術数的な商才は、真の商才ではないと説くのです。
”事柄に対し如何にせば道理にかなうかをまず考え、しかしてその道理にかなったやり方をすれば国家社会の利益となるかを考え、さらにかくすれば自己のためにもなるかと考える。
そう考えてみたとき、もしそれが自己のためにはならぬが、道理にもかない、国家社会をも利益するということなら、余は断然自己を捨てて、道理のあるところに従うつもりである。”
この言葉には、渋沢の経営哲学のエッセンスが込められており、経営をする上での本質が書かれているといっても過言ではありません。
Economyという単語は、福沢諭吉によって「経済」と訳されました。その出典は「経世済民(けいせいさいみん)」に由来し「世を経(おさ)め、民を済(すく)う」との意味から命名されています。渋沢は、「経済」という言葉をさらに分解し、道徳的な商いにより世を直し、民を救うという意味に解釈し、自らのビジネスの中で実現させていきます。
渋沢は一見相反する「道徳」と「経済」を両立させる難しいテーマを見事に成功させました。「世を経(おさ)め、民を済(すく)う」の名の通り、「経済」の発展を通じて、人々の生活を豊かにしたのです。まさに「和風マネジメント」の大家といえる人物です。
■「我が人生は、実業に在り」―渋沢栄一の名言集
・我も富み、人も富み、しかして国家の進歩発達をたすくる富にして、はじめて真正の富と言い得る。
・富者をうらやんでこれを嫉視(しっし)するのは、自分の努力の足りぬ薄志弱行のやからのやることだ。幸福は自らの力で進んでこれを勝ち取るのみだ。
・反対者には反対者の論理がある。それを聞かないうちに、いきなりけしからん奴だと怒ってもはじまらない。問題の本質的な解決には結びつかない。
・一家一人の為に発する怒りは小なる怒りにて、一国の為に発する怒りは大いなる怒りである。大いなる怒りは、国家社会の進歩発展を促す。
・不言実行と共に、また有言実行も大いによろしい。
・交際の奥の手は至誠である。
・一個人がいかに富んでも、社会全体が貧乏であったら、その人の幸福は保証されない。その事業が個人を利するだけでなく、多数社会を利してゆくのでなければ、決して正しい商売とはいえない。
・事業には信用が第一である。世間の信用を得るには、世間を信用することだ。個人も同じである。自分は相手を疑いながら、自分を信用せよというのは虫のよい話である。
・お金は働いて溜まる滓(かす)である。
・人を選ぶとき、家族を大切にしている人は間違いない。仁者に敵なし。
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